糺の森の泉川に架かる石橋を渡って東へ足をのばし、谷崎潤一郎の潺湲亭をたずねました。現在日新電機の施設となっていますが、潤一郎との約束で当時のままを保存しているとの由。谷崎は1949年(昭和24年)ここに転居し、源氏物語の新訳に取り組んでいます。潤一郎二度目の現代語訳です。その後1964年(昭和39年)にも『潤一郎新々訳源氏物語』を発表していますから生涯三度も訳したことになります。
その文体は原典の風趣を大切にして、主語がなく、しかも言い切ることを嫌うかのように、いつはてるともなく続く言葉の連なりで、独特の女性的な味わいがあって、『細雪』にも反映されているように思います。
潺湲亭の佇まいは、今でもかつての主人の想いを物語るかのようです。