H市空き家活用調査(平成25年度)
調査地域は、県境に近い山間部にあって7つの過疎集落で構成されている。20年ほど前、合併前の時代にこの地域のフィールド調査を実施した経験があったが、今回空き家活用調査を行った平成25年度には、さらに過疎化が進んでいた。地域の集落の多くでは、高齢化、若者流出に伴って多くの住民が県内・県外の都市部に移住し、もともとの集落の住宅はたまに帰ってきて手入れをする、あるいはほぼ物置状態、あるいは放置状態となっている。いわゆる「空き家」である。
調査のはじめに行った地区懇談会では、この「空き家」の定義がまず問題となった。たしかに国交省では「建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。」と定義されてはいる。しかし、住民にとってはけっして「居住その他の使用がなされていない」わけではない。多くの場合、家具等も仏壇も残されている。
そこで調査は「留守宅・空き民家の活用に関する意向調査」と位置づけられた。まず自治会長など集落の主だった方々に面談し、留守宅・空き民家の状況を教えていただき、意向調査を実施してもよい住宅を絞り込み、実際の現地を歩いて回って確認した。
集落戸数約300戸のうち、空き家・留守宅と思われる住宅が約120戸あったが、意向調査を実施できたのは60件足らず、そのうち活用を検討したいので建物内部調査をしてもよいとの回答を得たのが12件であった。
この12件について建物内部調査を実施した。管理者と自治会長立ち合いのもと、建築士スタッフによって間取りをスケッチし、改修が必要な箇所を点検した。雨漏り、床のひずみ、建具の老朽化、電気・ガス・水道設備の状況、合併処理浄化槽の有無などである。
なかにはすぐにでも住めそうな住宅もあったし、ほぼ崩壊しかかっている危険な家屋もあった。ほとんどの場合、天井裏などが膨大な荷物の物置となっていて、居住するにはこれら荷物の整理を解決しなければならない。大型ごみ収集を頼んでも所定の場所まで出すのが大変であり、これを回収してくれるサービスがあれば活用しやすくなるという声もあった。
調査の結果、活用可能な住宅は一桁台まで絞り込まれた。約300戸という全体戸数からみれば意外に少ないなというのが、市の担当者ともどもの印象であったが、調査の過程で得られた住宅に関するデータベースも含めて、地域活性化のためのストックとして考えれば貴重な結果であった。そして実際、これらのうち2件が移住してきた若者の住宅として活用されているのは、調査に携わったものとしても喜びであり、今後のさらなる展開に期待したい。