ユニバーサル・コミュニティをめざして

K市多文化共生推進計画(国際化推進計画改定・平成26年度)

 

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 「色々ご無理をお願いすることになると思いますが…。」顔合わせの日のご担当者は、少し不安げに見えた。ピリとした空気感に緊張を覚えた。今思えば、その時はまだ国際化(インターナショナル)とグローバル化の違いについてさえ、曖昧な理解しかできていなかったことを、見透かされていたのかもしれない。

 K市は総人口の約3%近くとなる2,500人が外国人住民で、平成2年頃から外国人転入者が急増した。当初はブラジルをはじめ南米から多くの日系人とその家族が来日、短期滞在者が多くみられたが、近年では定住化が進んでいた。また、工業を基幹産業とする同市では、近年人口が減少傾向に転じ少子高齢化の急速な進行が懸念されており、外国人労働者の存在は、まちの活力となる生産年齢人口としてもますます重要性が増している。

 

<アンケート調査>

 今回は日本人と外国人それぞれ1,000人を対象とした調査で、既にK市で郵送配布・回収された6ヶ国語の調査票を入力・集計するところからスタートした。集計分析の結果、日本人では、日常生活の中で「外国人との関わりがある」という人が実は非常に少ないことや、外国人との関係で一番困ったこととしては「コミュニケーションがとれないこと」だとわかった。「生活ルールを守ること」に関しての問題が懸念されていたが、実際に困ったという回答はあまりみられなかった。一方、外国人では、困っていることの筆頭に「仕事」と「日本語がよくわからないこと」があげられていた。定住意向は7割が「住み続けたい」と高く、地域社会との関わりも「関わっていきたい」と積極的な気持ちを持った方が過半数であったが、実際に地域活動への参加を阻んでいたのは「地域の人が誘ってくれたら」参加したい、という奥ゆかしいとも受け取れる思いであった。日本人も外国人も相互にアプローチしやすいしくみづくりなどの工夫が求められていると感じた。

 

<各課進捗調査>

 業務が進むにつれて、最初の緊張感とは裏腹に、笑いとスピードの絶えない活気に満ちたプロジェクトとなっていった。担当が女性同士ということも手伝ったのだろうか、しばしば電話時間は長くなったりもしたが、コミュニケーションに長け、各方面に心配りを絶やさないご担当者に、勉強させていただくことしきりであった。資料データの更新は頻繁で、勢いのある展開が続いた。さらに各課から集まった施策の進捗評価調査票は、一項目に多数の管轄課があり、整理作業は煩雑を極めた。個人的にはクライアント様との情報共有の方法にも改善の必要性を痛感することとなった。とりまとめの結果、ご担当課ごとの温度差はあるものの、多国籍住民の多いK市ならではの現状が見えてきた。100を超える評価項目のうち3割近くの計画の見直し意向が確認された。

<委員会>

 多国籍、多宗教の方々、国際化推進に携わる現場の方々等で委員会は構成され、まさに多文化の発言が飛び交う貴重な会議の場に参加させていただいた思いだった。母国語ではない方も流暢な日本語で、皆さんが非常に積極的に発言され、会議は毎回予定時間をオーバーするほど議論が絶えなかった。会議での言い残しがあっても、ご意見シートを通じて発言できるよう配慮させて頂いたつもりだったが、文書では伝わらないと、ご担当課に直接出向いてこられた委員もいらっしゃったと後からうかがった。

 計画課題としては、言葉の問題に関しては多言語表記だけでなくやさしい日本語使用の必要性について、相互理解を深める交流の機会づくりや、外国人市民が社会参画・活躍できるまちづくりの必要性、特にこれからは移住二世の活躍の場づくりが必要であることなどが次々と確認されていった。

 

<計画案>

 「なにより委員さんや住民の皆さんの意見を形に」「関係者のモチベーションが高まるように」…ご担当者の想い、強い思い入れがはじめにあった。そこで、現行計画の理念はそのまま受け継ぎながらも、本計画の新たなテーマを掲げることや、計画の柱である基本目標にそれぞれサブテーマを設けること、重点施策として総合窓口の設置や交流拠点づくりなど、いくつかのご提案もさせていただいた。

 各施策や文言は、変更と修正を重ね、ようやく計画素案がまとまりをみせてきた、と思えた…そのタイミングで、最後に計画名称について議論が沸き起こることとなった。「多文化共生計画」か「国際化推進計画」か。年も押し詰まった12月某日、委員長と副委員長による緊急会議が、年始には臨時委員会が開催されることになった。

 そもそもこの計画は、現行の「国際化推進計画改定」であったのだが、国際化(インターナショナル)よりもグローバル化、多文化の共生という視点から、また、県の名称にあわせて「多文化共生推進計画」に変更してはどうかという事務局側の意向だった。だが委員の方から、西洋における「多文化共生」の歴史、無制限の多文化主義の弊害を鑑み、計画名称に多文化共生をかかげるのはいかがなものか、という意見が出た。名称は目標を同時に表すことになるから慎重にするべきだということだった。

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ユニバーサル・コミュニティ甲賀とは・・・

 ユニバーサル(universal)は、もともと「全世界の、万人の、普遍的な」といった意味の言葉です。まちづくりにおいては、ユニバーサルデザインという概念があり、これは、年齢や性別、障害などにかかわりなく誰もが使いやすいようにデザイン・設計などの配慮を行うことです。

 甲賀市多文化共生推進計画においては、ユニバーサルデザインの概念をさらに広げ、多言語表記やわかりやすい日本語表記といった目に見える整備を進めるだけでなく、交流のきっかけや、語学力、生活習慣など、一見、形の見えない(無形の)領域においても積極的に障壁(バリア)をなくしていこうと考えます。国籍や年齢、性別などにかかわらず、誰もが交流・参画しやすく必要な情報やサービスに手が届くまち、お互いにアクセスしやすいまちを5年後の目標像とし、安心して生活を送れるそのような地域社会のことをユニバーサル・コミュニティ甲賀と定義しています。

 結局、多数意見として、内容が充実していれば名称にはこだわらないという考えや、外国人集住都市会議のスローガンにも多文化共生がかかげられていることなどから、採用しようという運びとなった。さらに委員長は、あくまでも本計画にかかげた独自の理念、テーマを貫けばよいのだということを最後に強調された。日本型の「多文化共生」をリードしていく意気込みで進めていただきたい、と。上から目線の古い発想、「困っている人を援助しよう」という考えではなく、市民として個人として一人ひとりを尊重し、言葉の問題や何かバリアがあるのならそれを乗り越えてお互いにコミュニケーションがとれるようにしよう、という「ユニバーサル・コミュニティ」の発想で、セグリゲーション(それぞれが分離した状態)に陥らない、新しいコミュニティのあり方をめざしてほしい、一人ひとりが自立し自分の文化に誇りを持ちながら日本の文化も理解し、色々なレベルで活躍する社会をめざして…と。たくさんの想いが詰まったこのプランの実現とまちの将来を、これからも陰ながら見守っていければと思う。

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